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ステレ8(越智道雄)

なるほど。では、私のステレ7でお聞きした産業資本から金融資本への移行、アテナイやローマの場合はいかがでしょうか?

ステレ8(向山 宏)

 まず、帝国主義段階でのアテナイの金融資本については、銀行家のパシオンが有名です。銀行家の奴隷として業務に精通し、ペクリオン(奴隷財産)を使って自分を買い戻し、銀行家として独立します。国家への貢献を通じて民会決議で市民権を得ます。

 奴隷のフォルミオンを解放して両替業務を任せた他に、作業場(エルガステリオン)で100人ほどの奴隷や奴隷監督官を使って盾工場を経営(年収1タラントン程度)しています。市民ですから土地を担保にする貸付も、作業場など不動産の所有も可能なわけです。たまたま伝存する法廷弁論に現れ今日有名になっていますが、1例というべきでしょう。

 銀行など一般貸付の利子は最高で年12%ですが、危険を伴う海上貸付などでは1航海シーズンで30%などの高利が許されています。その代わり海難や海賊被害などの場合には貸し金は帳消しになります。海上冒険貸借などと言われるわけです。商人や船主商人などは一般に積荷の半額を自己出資し、半額を海上貸付で受けて、相互に危険と責任を分かち合っていたようです。銀行よりも投機性のつよい金融資本ですが、これも法廷弁論に現れている限りでは、貸し借りともに圧倒的に非市民が多い。市民は1割前後に過ぎません。貸付額は6分の1−6分の4タラントンで(1タラントンは6000ドラクマ、1家の生活費が1日1ドラクマ弱)、商人はその倍額程度の積荷を積んだことになります。貸主の中には引退商人や現職の船主商人も含まれていて、必ずしも専門の投資家や銀行家の独壇場ではなかったようです。

 ローマの金融資本も当初はギリシアと同様でしょうが、具体的な姿がギリシアほどはっきりしません。銀行の業務も規模の拡大はあれ、帝政期においても両替商(貸付や徴収を含む)、仲介業者(売買取引の代理、貸付と徴収)、取立て業者(売掛金や貸金の徴収代行)などが行っています。主に奴隷や解放奴隷が実務を担当します。元老院身分の市民が経済活動を制限され、国家事業請負や徴税請負はケンソールとの契約関係になるため、主に騎士身分の市民に委ねられました。たとえば徴税請負人は、収穫前に徴税額を元老院に納入するため、前納する資金を必要とします。制度自体が徴税請負人の豊富な自己資金か、融資を受ける金融資本家の存在を前提としています。先に述べた両替商、仲介業者、取立て業者などを使って、騎士階層は経済界に卓越する勢力になります。この階層から出て元老院階層に出世した大カトーも農場経営のほか、利子を取って金を貸す事業、とくに「一番悪く言われる船舶に対する海上貸付」に関与します。かくして富豪クラッススはアテナイがペロポネソス戦争時に蓄えていた7000タラントンと同額の私財を獲得します。帝政期に入るとレントゥルスやナルキッソスは各4億セステルティウス(1億タラントン)の財産を皇帝に遺贈させられています。帝国絶頂期の1−2世紀のGDP120-135億セステルティウス(内小麦生産90億セステルティウス)、歳出(税収)8,3−9,8億セステルティウス、総生産に対する税額の比率6−8%(現在の日本とほぼ同じ)、元老議員600人の年収総額6,6億セステルティウス(ホプキンスの推定)。(2010/1/12)
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