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映画10_10.「9.11」とアフガニスタン戦争に現実感を回復させてくれる映画『カンダハール』

 アフガニスタン戦争がニュース速報だけで空回りするのを避け、ずしりと手応えのあるこの国のイメージを持つために必見の映画。

 ブッシュ大統領は900万人とも言われる自国内のイスラム教徒への配慮から、原理主義テロリストと一般教徒とを峻別、後者の指導者らと頻繁にテレビに出てきた。だからこの映画は見ると公言していた。

 ところが、ブラック・モズレムからムジャヒディンに転じ、さらに無免許医師として難民の治療に当たる人物を演じたアメリカ黒人の俳優ハッサン・タンタイが、1980年に反ホメイニ派イラン元外交官をメイン州で暗殺した犯人デーヴィッド・ベイルフィールドとして同州の検事から告発され、ブッシュも見るわけにいかなくなった。

 映画は、カナダに亡命していたアフガニスタン女性が地雷で片足を失い、タリバン支配下のカンダハールでの暮らしに絶望、自殺を匂わせる手紙を受け取って、急遽母国に入ろうとする。実はこのヒロインを演じる女性自身、カブールの親友から自殺を匂わせる手紙を受け取り、急ぎ帰国しようとして、イラン人監督マルバフドフに援助を求めて断られたが、二年後、彼からこの話を映画にしたいと主演を請われ、半ば以上実話の形で映画が作られた。しかも他の出演者も、イラン国境で暮らすアフガン難民らで、中には映画を見たことがないどころか、映画とは何かを知りもしない者たちで、3つの部族の言語障壁、男性の許可を得ないと出演できない女性差別など、制作側は大変な苦労があった。

 ヒロインは四人の男性をガイド役にしてカンダハールを目指す。タリバン支配下では女性の一人旅など思いもよらないからだ。前述の贋医師は、最も存在感のあるガイド役である。またマドラーサというイスラム学校で体を前後に揺すりながらコラーンを暗記する少年らのシーンは衝撃的だが、ここの落第生の少年もガイド役として印象的だ。さらに一千万発と言われる地雷で片足になった男らが、赤十字が投下する義足をに松葉杖で駆け寄る光景も目に焼きつくが、地雷で片手をなくした男もガイド役になる。ヒロインの姉妹自身、足をなくしている。

 全員アマ俳優なのだが、映画の迫真的な存在感は見る者を圧倒する。今年最高の傑作に押す映画評論家も登場している。

 アメリカ側の原理主義テロとの戦いに、アメリカ黒人がテロ側についた過去が暴かれる皮肉──この複雑な交差点に今日的な矛盾が集約されている。
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