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映画13_2.『ミッドナイト・ムーヴィー』

カウンターカルチャー最後の拠点、<真夜中映画館>

 1960年代のカウンターカルチャーが円熟期に達し、ロック・コンサートが下火になったものの、まだディスコが登場していなかった端境期、<真夜中映画>と呼ばれるジャンルが上映館に常連観客を集める結節点になった。これはこのジャンルの映画に詳しいステュアート・サミュエルズが有名な6作を振り返るドキュドラマである。

 カウンターカルチャーの最大の機能は中心と周辺、高級と低級、専門家とアマチュアなど幾つもの両極端を融合した点にあり、<ザ・グレート・ミックス>と呼ばれた。メディアでは、少なくともアマチュアが大きな顔をして専門家をやり込めるのが売りになった。

 これはまさに<文化大革命>であり、<革命>の中核は古い感性の破壊と創成にあった。分かり易く言えば、「目的を持った悪趣味」が噴出してきたのである。「キャンプ(滑稽でわざとらしく、場違いで、ホモっぽい)」という形容詞は聞いたことがあるだろう。キャンプこそ、その悪趣味、破壊され創成された新たな感性を凝縮した形容詞だった。

 このドキュドラマで取り上げられる6作では、例えば、ゾンビを描いたジョージ・ロメロの『生ける屍の夜』(68)だが、<ゾンビ>こそ破壊され創成された新たな感性のシンボルだった。これに拒絶反応を抱く者は、旧来の感性に囚われた人間とされた。つまり、カウンターカルチャーのさいはてに到達するには、大半の旧来型人間がついていけない混沌たる感性が原油やタービンの役割を果たしたのだ。

 しかし、ゾンビこそ、シンボルの二重性によって、旧来型の人間が高度管理社会に捉えられた姿を表してもいたのである。ロメロの『ゾンビ』(1970)で巨大ショッピングモールに群れるゾンビこそ、高度管理社会に捉え込まれた私たちの姿なのだ。

 アレハンドロ・ポドロフスキーのメキシカン西部劇『エルトポ』(70)は、こうもり傘をさしたライダーが荒野を行くとぼけた画像、WASPを中心とした西部侵略の犠牲にされたメキシコ側からのアンチ・ウェスタン劇として、まさに周辺が中心を侵犯した作品だった。残りの4作は、ヒッピー最初の殺人グル、チャールズ・マンスンをダブらせたドラッグ・クィーン(女装ホモ)を描いたジョン・ウォーターズの『ピンク・フラミンゴ』(72)、レゲエをBGMとするペリー・ヘンゼルの『どっと来やがったぜ』(72)、あのスーザン・サランドンが出ている、リチャード・オブライエンの『ロッキー・ホラー・ショー』(75)、後に『エレファントマン』を撮るデイヴィッド・リンチの『イレイザーヘッド』(77)である。

 カウンターカルチャーは、高度管理社会の「意識の支配」に抵抗すべくドラッグや東洋思想で「意識の拡大」を押し進め、「拡大された意識」の持ち主たちが「大集合(トゥギャザーネス)」することによって「代替社会(オルターナティヴ・ソサイアティ)」を構築した。<真夜中映画>の上映館こそ、トゥギャザーネスの一大センターになったのだ。館内の空気を10分も吸っていただけでトリップできるほどハッパの煙が充満する環境で、アシドをしみ込ませたジュースでハイになりながら、観衆はこれらのカルト映画を鑑賞、いや騒々しくシンク(ロナイズ)し合い、幾多のハプニングにさらに酔いしれたのである。『ピンク・フラミンゴ』の監督と女装ホモを演じたディヴァインは、映画を抱えて専用上映館をドサ回り、行く先々で「ウォーターズ監督はアメリカの脈動に手を触れた。彼はアメリカのオケツの穴からもろに親指を突っ込んだんだ」と興奮して語るようなファンを増やしていった。『どっと来やがったぜ』など、正規の配給網でコケたのに、専用上映館を巡回するうちに息を吹き返した。

 制作形態から見ても、スタジオの支配はテレビによって覆され、インディズの製作者がうけに入り、この6本のように旧来のシステム外で映画が制作され始め、配給網も<真夜中映画>専用上映館のような新規のルートが開発された時代だった。

 しかし、その後、ビデオ、さらにはDVDの登場によって、映画は一人で見る「孤立の道具」に一変、トゥギャザーネスは絞め殺された。そのくせ、「目的を持った悪趣味」は主流化、テレビ会社を傘下に収めて復活を遂げた大手スタジオの作る映画の中に本当に汚らしく溢れ返ることになった。この映画は、トゥギャザーネスへの追悼と高度管理社会への挑戦を諦めてしまった今日への警鐘でもあるのだ。

 カウンターカルチャーについては、拙著『アメリカ<60年代>への旅』(朝日選書)を読んでほしいなあ。
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