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映画8_4.『ザ・コンテンダー 』

 この映画は、民主党政権の現職副大統領が急死、代わって女性連邦上院議員(ジョーン・アレン名演)が後任に指名され、共和党主導の議会でグリルされる話である。

 女性副大統領という点では、1984年の大統領選で民主党側の候補としてレーガンに敗れたモンデールとコンビを組んだイタリア系の女性連邦下院議員ジェラルディン・フェラーロがすぐ浮かぶ。彼女は不動産業の夫の不正行為を暴かれるグリリングを受けた。

 しかし映画では、やはり民主党政権の現職大統領と副大統領の急死で大統領職についた黒人上院議員(ジェームズ・アール・ジョーンズ好演)が共和党はおろか民主党も含めた白人政治家らからグリルされる『ザ・マン』が浮かんでくる。

 しかし『ザ・コンテンダー』は、明らかに民主党贔屓のハリウッドの産物ながら、女権運動側に固執することなく、あくまでリアルポリティークを描いたものだ。民主党政権の大統領(ジェフ・ブリッジズ名演)も、史上初の女性副大統領任命で歴史に名を残したいからこの挙に出たわけで、柔和な表面と老獪な裏面を使い分ける政治的怪物である。彼の首席補佐官(サム・エリオット好演)、女性副大統領候補をいびりと批判されないすれすれの線で巧みにグリルする敵役の共和党下院議員(ゲアリー・オールドマン名演)その他、主な役どころが政治家の実態を実に見事に造形化しているのである。政治家の二枚舌は古今東西不変の現実だから、言っていることと肚の中はほぼ常にずれている。そのずれこそが政治だといえる。そのずれを捉えるために、この映画は手持ちカメラや極端なクローズアップを駆使、言葉とボディランゲージの間隙を見事に浮き彫りにする。

 監督のロッド・ルーリー(ユダヤ系)の父親は有名な政治漫画家ラナン・ルーリーで、ルーリーは子供時代から政治の「ずれ」に魅せられて育った。後に『ロサンジェルス・タイムズ』で映画評を書いたが、実作に乗り出して二作目にして早くも手腕の程を堪能させてくれた。ちなみにルーリーは最初からジョーン・アレンをハンスンに擬して脚本を書いたというから、リアル・ポリティークの表現を彼女の演技力で確実なものにする意図があったわけだ。

 女性副大統領候補レイン・ハンスン議員の吊るし上げは、ケネス・スター特別検察官によるクリントン夫妻の吊るし上げを下敷きにしている。クリントンの大統領執務室内での情事は、ハンスン議員が学生時代、二名の男子学生と絡み合ったセックス(ギャング・バングという)に呼応する。

 オードマン扮するシェルドン・ラニャン下院議員は南部出身らしく、FBI女性職員(キャスリン・モリス好演)を記者に化けさせてハンスンのギャング・バングを暴き出し、最大の攻撃材料に使う。

 クリントンは持ち前の身をくねらせる戦術でモニカ・ルンスキーとの関係を否定し続け(その否定の滑稽さが最高潮に達したのが、挿入しなければセックスではないと主張した例の葉巻挿入)、結局馬脚を表した。

 ところがハンスンは、「セックスは私事だ。誰も私事に介入する権利はない」で押し通す。これは彼女が1960年代のカウンターカルチャーの柱の一つだったフリーセックスを実践し(大統領から副大統領任命の電話を受けたときも彼女はセックスの最中だった。もっとも相手は元選挙参謀の夫)、以後も中絶賛成、菜食主義、無神論、離婚経験とカウンターカルチャー的遺産を護持している。そして「私事介入」を撥ねつけられなかったクリントンの弾劾に賛成票を投じた前歴を持つ(映画の時代は2007年ころ)。

 唯一不明なのは、そんなハンスンが最近まで共和党に残っていたことである(クリントン弾劾は民主党入党後)。彼女の父親(州知事)が共和党員だったのが理由だが、やはり共和党員の父親(縫製産業経営)から厳しい薫陶を受けて育ったヒラリー・クリントンはカウンターカルチャー時点で共和党から民主党に鞍替えしているのだ。

 しかしかハンスンの頑固さはヒラリーに通じるものがある。最初の女性大統領は副大統領経由でしか実現しないという神話がこの映画でも生きているが、2000年度は共和党からエリザベス・ドールが予備選に一時名を連ねたように、今後、女性候補が堂々と予備選に名乗りをあげてくるだろう。傑作ではあるが、この神話はこの映画で最後にしてもらいたいという気持ちが残る。
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