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映画9_7.「9.11」とワンマン・アーミーの対比の妙『コラテラル・ダメージ』

 これは爆弾テロを描いた映画なので、アメリカでは2001年10月封切り予定が、「9.11」のせいで自粛、今年まで棚上げされていた──それだけで話題になった駄作B級映画である。

 近頃は洋画に日本語の題名が激減、これは日本語も英語も分からない日本人の増加と比例している。しかしこれは日本語にしづらい。「側杖食らう」の「側杖」だからだ。直訳は「付随的損失」、まあ「巻き添え」ね。

 題名の当人がロスの消防士ゴーディ・ブルワーの妻と子供を含めて合計9名、加害者はコロンビアのテロ集団、場所はロスの副都心センチュリー・シティ(ここも古びてきて、近年は老朽化していた都心のほうが新高層ビル群で見栄えがいい)。テロの標的はそのビルのCIA支局とコロンビア領事館、狙いはドラッグ・ウォー名目でコロンビアに進駐した米軍の追い出しだ。

 「9.11」以前だから、9名程度の犠牲ではアメリカ政府も動いてくれない。頭にきたゴーディは「ワンマン・アーミー」でコロンビアへテロ集団退治に赴くのだが、なぜかパナマのジャングル経由なんだよね。

 テロ集団の親玉の名はシートンの主役と同じロボ(狼)、しくじった部下の口をこじあけて生きた蛇を喉まで這い込ませると目の玉がでんぐり返って死ぬ──そんな残酷さもお茶の子さいさい。B級映画は部分部分に忘れられないシーンが意外に多いんだ。

 アメリカ人は中南米を「うちの裏庭」呼ばわりするだけに、中南米を舞台にしたアメリカ映画は主人公がこの地域を食い物にする作品が大半だった気がするけど、今度は家族が被害を受け傷ついたアメリカ人という設定が、まあ新機軸かもね。しかしそれも、昔の西部劇のインディアン同様、中南米人が悪役に される形で食い物にされるわけだ。

 前にも書いたが、『ウォーカー』の主人公ウィリアム・ウォーカーのようにニカラグアを乗っ取る実在のフィリバスター(不法戦士)から、メキシコ国境の組立工場群マキラドーラスで低賃金労働力を搾取するアメリカ資本まで、食い物にする種類は無数にある。

 だからいかに妻子を殺されても、ワンマン・アーミーで押しかけてきたゴーディも変種的フィリバスター、変種の「米軍進駐」になるわけである。「9.11」以降、アフガニスタンへブッシュが拳銃持って土足で上がり込むマンガは一杯出ている。

 ラッパーになりたがるコカイン密造者を演じるジョン・レクィザモは、『サマー・オヴ ・SAM』で注目したが、今回もさすが。  コロンビアの貧農まで英語しゃべる設定はB級映画の極み。グリンゴ(アメリカ野郎)を憎む中南米人はレストランですら英語をしゃべってくれない(知ろうとしない)。

 シュウォーツネガーは大根だが、これまではワイズクラック(気のきいたジョーク)で持たせてきたのに、今回は傷ついているのでそれもなし、心底から大根になり切って、それもB級映画の自虐的楽しみ方かな?
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